櫂様は、最後まで緋狭様を信じられていた。


だからこそ、今の状況があるというのなら。


私はそのチャンスを無駄にはしたくない。


櫂様は、私達を助ける為に辛い道を選ばれた。

玲様も、櫂様を支える為に辛い道を選ばれた。


だとしたら。


煌を連れるこの道がどんなに険しいものであっても、私は真っ直ぐに突き進もうと思う。


信念が力となるのなら、私は今…力に満ち満ちている。


だから櫂様。


早くお帰り下さい。


櫂様。


あの5日前の最後の日に見た朝日。


その後、ちゃんと太陽は昇りました。


櫂様の居場所は…あるんです。




そして玲様。


――新たに次期当主となった玲が、それまで持ち堪えられればいいが。



縁談。


玲様は…どうなされるおつもりなのか。


櫂様が居ない状況で、芹霞さんまで失えば…玲様の心は壊れる気がする。


芹霞さんでさえ…櫂様を失ったことで、12年間の記憶を完全に消したというのなら、それを間近で見ている玲様の心痛は計り知れない。


今、玲様をお守り出来るのは、芹霞さんしかいない。


その芹霞さんという存在が、玲様の心を乱すものとなっているのなら、玲様は事実上…お一人だということ。


何より玲様を蔑み続けた環境の中、櫂様も私も煌もいないとなれば。


誰が玲様をお支えできる?


玲様。


ああ、煌を連れて、必ずお傍に行きますから。


どうか、それまで耐えて頑張ってください。



――芹霞さん。


どうか私に代わって、玲様を…

お守りください。



――紫堂櫂を愛してる!!!




今は、少しでも地盤を固めることが重要だ。


早急に…動かねば。



――紫堂櫂を愛してる!!!



だから私は――


痛む胸の脈動を…見てみぬフリをした。