それを思い出した時、僕の心は引き裂かれそうになった。


僕は今、何をしているのだと。


櫂を傷つけることをしているだけではなく、僕は櫂を殺そうとしているのかと。


違う、違うんだ!!!


僕は…芹霞の中の想いの再生を恐れていて。

だから櫂と引き合わせたくなくて。


ソレガカイヲコロスコトニナッテモ?


――"約束の地(カナン)"に行こう。


そう行った時、芹霞が微かに微笑んだ気がした。

それを見た僕の心は、苦しくなって。


櫂に会える悦びを感じているのか?

櫂への愛は忘れていないのか?


――うん。久遠が心配だからね。


シンパイスルノハクオンダケ?


震える身体を気づかれないようにして、


――そうだね、心配だからね。


僕は笑う。

微笑み続ける。


「大丈夫だよ、玲くん。玲くんが行けば、きっと…」


芹霞が僕を勇気づけるように笑って、そっと…僕を抱きしめた。


違うよ。

不安なのは君の心。


もう僕には、まるで戻ってこないのかと思えば。

もう決定的になってしまうのかと思えば。



優しい優しい芹霞の…温かな温もり。

柔らかな芹霞の嫋やかな身体。


僕の中にすっぽり埋まる小さな身体は、こんなに僕に馴染んでいるというのに。


僕は芹霞の心を手に入れられない。


欲しいのに。

こんなに芹霞が欲しくて堪らないのに。


まだ…僕は頑張りたいのに。



――芹霞…僕が好き?


そう聞けばきっといつも通り…


――うん。あたしは玲くんが好き。


そう返ってくる。


そう。いつも通り…。