久遠は――
まだ詠唱に入っていない。
久遠の手を止めるわけにはいかない。
ああ、力が使えれば。
こんな雑魚共、一掃できるのに。
自らの立場を恨めしく思いながら、剣と体術を平行して複数の敵を地面に叩き付ける。
「天照皇太神の宣(のたま)はく、
人は則(すなわ)ち天下(あまがみした)の神物(みたまもの)なり」
久遠が祝詞を唱えた。
びぃんというような、弦が震えたような緊張感が空気に走る。
一瞬。
瘴気を纏う全てのものの動きが止ったように思う。
そして…一斉に動きを強めたんだ、全てが。
蛆は狂ったようにもぞもぞと動き、蚕の両先端はびちびちと暴れ。
音楽の音声は大きくなり、映る映像も激しく。
制裁者(アリス)は、突如耳を押さえて叫び声を上げた。
「須(すべか)らく掌(しずま)る静謐心は則神明の本主たり
心神を傷ましむること莫れ 是の故に…」
久遠の声…か?
先程久遠が音によって周波数を乱されたが、同じコトを久遠がしているのか?
それが…浄化の術なのか?
「目に諸の不浄を見て 心に諸の不浄を見ず
耳に諸の不浄を聞きて 心に諸の不浄を聞かず」
震える。
久遠の聖なる言霊を伝えて、
瘴気に塗れた空気が震える。
制裁者(アリス)がばたばたと地面に突っ伏す。
耳から…血を吹き出している者も居る。
内耳…内部から破けたのか?
暴れる蛆と蚕。
蚕は突如破裂し、汚濁液が舞い散った。

