「ちっ…。あっちから帰還してきたばかりのお前は、まだ現世(うつしよ)の肉体とうまく融合出来ていないのか。
あちら側にもっていかれるな!!」
そして久遠が、静かに唱えた。
「ふるべふるべ…
ゆらゆらとふるべ…」
久遠が紡ぐ言の葉は、何処までも神聖な静寂(しじま)を広げて、俺の中の澱んだ気を清澄化していく。
言葉に宿る神気が、震動(バイブレーション)と反響(リフレイン)を繰り返し、空間を満たしていく。
ぶれてずれていた…俺の肉体と魂の波長が、久遠の言葉の響きに同調し…同じ波に揺らぎ…
ゆっくりと少しずつ…
俺は"俺"を取り戻す。
「全く…手間がかかるな、
"ゲテモノ"メイドのくせに」
ひと言余計なんだよ、お前は!!!
そんな時だった。
扉の奥から、声が聞こえたんだ。
「奇跡です!!!!」
それは若林アナの声だった。
中継をしているのか。
「ああ、なんて言ったらいいのか判りません。
皆様に…この感動が伝わるでしょうか!!!」
奇跡?
感動?
今、扉の外には、俺と久遠とクラウン王子しか居ない。
その他全員は扉の中で。
「うぉーーーッッ!!!」
泣き叫んでいる男の声も聞こえてくる。
「これが…天使か!!?」
「ああ、天使様!!!」
天使の単語が続いていく。
「願いを…叶えて下さい!!!」
「天使様!!!」
「天使様!!!」
「楽園に連れて行って下さい!!!」
何が起っているというのか。
何を見ているというのか。
あんなに"天使"に懐疑的だった男達が、たかが"悦楽"の誘惑に負けたからと言って、何であそこまで熱く叫べるのか。
天使が…
本当に居るのか?

