「それでもいいなら…ほんの少しだけ手助けしてやる。だからほんの少しだけ信用していい」
あくまで"ほんの少し"だけれど。
「だったら、俺達もほんの少し助けてやる」
聞いていたらしい煌が、不敵に笑った。
漆黒色の主のような笑い方で。
「ギブアンドテイク。
だから…変な"縛り"は抜きにしろよ」
それを受けた朱貴は笑った。
"契約"は成立した。
「これが…紫堂櫂…?」
目と口を開けるにいいだけ開け、凝固して動かなくなった皇城翠を抜きにして。
「嘘だろ、どう見ても…似てるだけの女じゃねえか。
俺…女だと思って実は男だったら、絶対立ち直れない」
何かぶつぶつ翠が言っていたけれど。
私には関係ない。
画面では――
無口な久遠に成り代わり、久涅が滔々と喋っている。
それを見つめるのは…
強張った顔の櫂様。
朱貴は、今テレビに流れている映像は、"別の映像"だと言ったけれど。
違う。
この映像は…
私達と同じ時間が流れている。
偽装じゃない。
現に朱貴も、現在進行形として扱った。
何より目に映っているものは真実だと、
私の心が告げている。
久涅が居る"約束の地(カナン)"。
不安は募る。
櫂様だと…判られているのか否か。
玲様なら…どう判断されるのだろう。
ああ。
もしばれたのなら。
今度こそ、櫂様をお守りしたい。
だけど…
――助けてくれ。
玲様には時間制限がある。
そして私達は――
玲様を助けるのだと約束したんだ。
"約束の地(カナン)"に現われた久涅。
映像上今の処異変はなく、私の不安が大きいだけ。
そしてあの地には久遠らがいる。
時間稼ぎはして貰える。
だとしたら…
私は唇を噛みしめた。
「桜。両方行くぞ」
煌は事も無げに言いのけた。
「どっちか切り捨てろなんて、櫂なら言わねえ。
さっさと動けば…
"約束の地(カナン)"にも間に合う」
決意に満ちた褐色の瞳。
「選択するんじゃねえんだ。
"優先順位"を変えるだけ。
まずは七瀬だ」
いつもいつも迷い惑って揺れまくる脆い精神を持つ癖に、こういう時はぶれない馬鹿蜜柑。
それでも判る。
それが最良の方法。
少しお待ちください、櫂様。
こちらを早く片付けて――
私達は"約束の地(カナン)"に参ります。
それまで…
どうか…ご無事で。
そんな私を――
朱貴が翳った顔で見ていることに気づくことなく。

