「ねえ、芹霞。
僕が居ない時に…出かけないで」
鳶色の瞳が、あたしを見据えた。
「僕以外と、"お出かけ"しないで」
そして――気づく。
「ああ、あたし…玲くんと"お出かけ"してないね」
すると玲くんは、少し切なげに笑った。
「僕は…いつでも覚えているよ。
"お出かけ"は、僕だけの特権だ」
玲くん…随分とお出かけしたかったんだ。
そして玲くんはあたしの手を優しく掴むと、そのまま一緒に…そっと玲くんの…殴られた側の頬に添えた。
玲くんの綺麗な…端麗な顔が、あたしの手の平に吸い付くように傾いて、玲くんはそのまま静かに目を伏せた。
それは数秒のことだったけれど…音のない静寂(しじま)があたし達を包み込む。
玲くんの長い睫が…何かを耐えるように小刻みに震撼していて。
それ故か、端麗な顔は少し苦しげだった。
だけど玲くんは…どんな顔をしていてもやっぱり綺麗だと思う。
白い…夢の王子様だ。
いつもあたし達に見せていた、穏やかな"にっこりほっこり"は、今では影を潜め…切なくなるくらい儚げな色を際立たせていて。
そこに、悲哀と寂寥の色を混ぜていて。
そんな表情でも、やっぱり玲くんは…綺麗だった。
思わず見惚れていたら――
「芹霞」
玲くんが目を開けた。
吸い込まれそうな程の透明感を魅せる鳶色の瞳。
「僕と――
"お出かけ"しようか」
玲くんは言った。

