小猿は至って真剣なんだが、小猿が道具を持つ姿は……何だか人類の進化の過程を見ているようで、妙に驚嘆する気分になる。
しかし所詮は猿らしく、色々試してみていたようだが…
「駄目だ…切れない」
此処で初めて人類の頭の良さが判るもんだ。
俺は馬鹿だけど、猿よりはマシだ。
そう意気揚々と俺も鎖を引っ張ったり、道具を使ってみたが、
「……同類なんて…」
溜息をついた俺から、道具を奪った桜が同様な試みをしてみるのだが…
「……私も同類なんて…」
少なからず、桜の矜持は傷ついたらしい。
落ち込む俺ら3人に、朱貴が優しく微笑んで言った。
厳密に言えば、小猿だけに対してだけの微笑みだけれど。
「この枷は…108の結界を解ければ外れることになっています。それまではどんな物理的衝撃を与えても無駄でしょう。
106までは僕が解きました。あと2つでこの枷は外れます」
106って…。
だから、朱貴は傷ついていたのか?
枷を解こうともがいただけの理由ではなく、その結界とやらを解くこと自体に危険が伴っていたのか?
あの朱貴が、此処まで辟易したというのか!!?
これだけの傷くらったというのか!!?
どんな結界なんだよ!!!?
「ひ、106!!!?」
小猿がのけぞった。
「"108の陣"…煩悩という名の幻覚の陣。元よりこれは、逃走の際の時間稼ぎのような防御結界の陣ですが、周涅はこれを改良し、もしそれに触れた者が陣の施術者たる周涅の意向にそぐわぬ行動をすれば、直ちに心の脆弱部分に攻撃する…そんな厄介な罠を結界1つ1つに仕込み、この特殊な枷の鍵としました。
鍵を解こうとする行為自体、周涅の意に反すること。よって立て続けに攻撃を食らい続けてしまいましたが…所詮は人間の作ったものなれば…」
そして薄く笑う。
「《妖魔》の巣窟に落されるよりはましですよ」
陰鬱な秀麗な顔で――。
俺は何か含みを感じた。

