桜と小猿が俺を見る。
俺はぶれない。
自分で七瀬を守りたいとするその想いが判るから。
愛する女を守るのに、他の手を必要としないという…その心が痛い程判ったから。
「これは…間違いなく朱貴だ」
俺の声に同調したように、桜が朱貴の傍に寄った。
「皇城翠。朱貴の着替えと、血を拭く濡れたタオルをもってこい」
小猿はあわてて別室に行き、着替えと濡らしたタオルを持ってきた。
「朱貴、紫茉とは追手の目を眩ませる為に、別方向からこっちに向かうことにしたんだ。あいつの体術はそれなりにそれなりだから、大丈夫だって。もう此処に着くはずだから」
「……しかし…」
「大丈夫。何かあったら俺に電話入るようになってるし…」
「お前…充電切らしてたじゃねえかよ、コラ」
小猿は飛び跳ねるように、慌てて何処からか持って来た充電器で充電始めた。
朱貴は、何とか七瀬を待つ姿勢をとったようだ。
本当にとことん小猿に甘い男だ。
きっと本心、探しに行きたくて仕方が無いんだろう。
桜は、小猿が用意したタオルで、朱貴の血糊を拭いている。
先程までのように、警戒している雰囲気がなく。
「お前…、俺の言うこと信用するのか?」
何だかそれは意外で。
「――私だって心はある。お前の言葉を真実だと思った。ただそれだけだ」
「さ~く~「た~ま~き~!!!」
俺の感動を小猿がぶち壊した。
空気読めよ、この猿!!!
「今、今この枷切ってやるからな!!! んーんー!!!」
猿の尻より赤い顔をして、力一杯鎖を引っ張っても何しても、切れないらしい。
「ちょっと待ってろ!!!」
また走り去ったと思ったら、ペンチだのニッパーだののこぎりまでもが入った大きな工具箱を持ってきた。
完全猿小屋と化してはいるが、ここは七瀬の家だ。
よくこんなものを探し出してこれるな。
野生猿の勘って恐ろしい。

