"輝くトラペソヘドロン"
何の為に、誰が何処で生み出したのか、まるで判らねえ未知なる物質。
誰が何でそんなヘンテコ名付けたのか、まずそこから知りてえ。
緋狭姉と氷皇、そして俺達全員の力を注ぎ込むことで、瓦解可能になった……"約束の地(カナン)"の塔の頑丈な外壁だったことは記憶に新しい。
同じモノが東京の黄幡会の塔でも使われ、此処でも使われ。
そこまで流通された物質でもないだろうに、此処まで何でもねえ普通の物質のように使われれば、統一された"作為的なもの"に利用され、その中に俺らがいるとしか思えねえ。
朱貴たる者でもこの物質の枷を自力で外せないとは、それだけこの物質が特殊なのか…それとも外せないフリをしているだけか。
この朱貴が真実かどうか――
判らねえんだ。
くったりとして動かない朱貴。
目は伏せられ、秀麗な顔が青白いのは…手足首に出来た裂傷の出血故か。
しかしそれ以外にも、身体の不自然な場所に妙な傷が多かった。
血に染まって破けた服の隙間から、窺い見える傷はありとあらゆる種類。
切傷、擦過傷、裂傷、刺傷、熱傷、打撲…咬傷まである。
何に咬みつかれたというんだ?
この部屋の中で一人四肢を枷で拘束されたままで、自然発生するような傷ではなく。
誰かが居たのか?
これならまるで拷問の痕のようだが…焦らしたような回りくどい傷ではない。
人を嬲りいたぶって笑い転げる――
あの残虐赤銅色がしたと考えるにはストレートすぎた。
第一、朱貴と周涅は敵対関係でもなければ、協力関係にもない…そんな不思議な関係だったはず。
だから一か八かで、俺達は朱貴を動かそうと思ったんだ。
では誰だ?
朱貴程の男にこんな傷をつけられるのは。
翻弄出来るとしたら五皇レベル。
だけど非道氷皇だって蹴りだけで押さえつけるはずだし。
緋狭姉だってここまでやらないだろう。
久涅だって…例え無効化出来る力があるとは言え、体術だって申し分ない朱貴をこんな一方的にやりこめる程の力はないはずだ。
だとしたら?
まさか――
他の五皇の存在が?
目の前の光景が真実だとも断言出来ない安直な俺が、何を考えてもそれは愚かしいものなんだろうか。
この嫌な予感は…
取り越し苦労で終われるんだろうか。

