見覚えある…冷たい大理石で覆われた廊下。
俺達は七瀬の家にまだ足を踏み入れておらず、十字架の朱貴もあの奇怪な蛆も蚕も何一つ痕跡は残っては居なかった。
消えたというよりは、元より存在していなかったというのが正しいだろう。
違和感がないこの風景こそが現実の…真実の姿で。
その中に悠然と歩いてくるのは、剣呑な赤銅色。
「翠くんを誘き寄せる為の"鏡の陣"だったのに…面白いものを引き寄せてしまったようだね~、ははははは~」
俺達は身構えた。
癒された筈の傷が疼き出す。
くそっ。
俺達は朱貴に会いに来たのであって、周涅に会いに来たわけではない。
「どうしたの、そんなに怖い目をしちゃって。此のマンションは周涅ちゃんの家だよ~? 周涅ちゃんがいて悪いの~?」
確かに、周涅の家なんだけれどよ。
「ねえ…翠くん」
小猿に向けられる赤銅色の瞳が細くなった。
「いい度胸だね、此処までくるなんて」
アブナイ。
そう考えたと同時に俺の身体は勝手に動き、小猿の前で周涅の正拳を腕で受け止めていた。
「へえ…。随分と勘が良くなったね、オレンジワンちゃん。殺戮者としての勘を取り戻せたのかな?」
俺が…制裁者(アリス)となっていたことを、知っているという訳か。
「だったらさ、周涅ちゃんの相手してよ?」
歪んだ笑い。
そして――
「周涅ちゃんを愉しませてよ。
退屈で退屈で仕方がないんだ」
戦鬼の顔。
「ねえ、BR002…」
その顔は氷皇のものでもあり、BR001のものであり。
「首を刎ねる黄色いお仕事は…
楽しかったかい?」
どうして…
「君の大事な大事な偃月刀には…見えないモノが映ったかい?」
お前が知っているんだ?
何を知っているんだ?

