芹霞の心は櫂を思い出したがっている。
それを二度も僕は押さえつけた。
芹霞の心は、弱まっているのだろう。
甘えるように僕の腕にしがみつき、まるで離したくないという素振りを見せるようになったのは・・・
――君が愛したのは…僕だよ。
――櫂は…いない男…だ。
僕の言葉が誘引したものだ。
目の前で逝った櫂のショックから、無意識に僕を櫂と混同して…僕にすがるようになっただけのこと。
判っている。
こんなに揺れる目は、"僕"には向けていない。
独占欲に満ちたような切ない目は、"僕"に対してのものじゃない。
僕に甘える素振りを見せるようになったのは…櫂と混同してるだけ。
僕に対する執着心ではない。
ダッテキュウゲキスギルダロ?
だけど錯覚でも自惚れたい僕は、
突然の芹霞の花嫁姿に泣きそうになった。
これが現実のことなら。
僕が芹霞の隣に立てれば。
僕はどんなに幸せだろう。
思うだけで蕩けそうな至福感を感じた。
そんな僕に、今度…芹霞が向けたのは、母性に溢れた眼差し。
僕は僕なのに…今度は昔の櫂を見出した。
これ以上もない程綻んだ笑みを見せたんだ。
好きで好きで仕方がないというような、そんな笑み。
愛しくて堪らないというような、そんな笑み。
事情を知らねば、完全誤解しそうな…そんな笑み。
何処までも僕は櫂の身代わり。
そう思ったら…僕の体が震えた。
だけどそれでもいいと思う僕。
同時に――
自分だけを見て欲しいと思う"僕"がいて。
僕は僕で、決して櫂ではないけれど、
櫂と思ってもいいから、僕を選んで欲しい。
矛盾した心が僕の中で大きくなっていた。
僕はただ――
――紫堂櫂を愛してる!!
全身で愛して欲しいだけ。

