「なあ…桜。自警団ってさ、
見回り対象は俺達みたいな未成年だよな」
夜目でも鮮やかな橙色が、不思議そうな顔をしてこちらに向いた。
「自警団の活躍でガラの悪い若い奴だけ消えるのは判るけどさ、何でその対象外の優等生とか大人まで消えるんだ?
ガラ悪いの居なくなったのなら、安心して外歩けるはずだし、大体大人だって自警団に風紀が正されたと感謝してるくらいなら、敵対関係ではないだろう?
新宿もそうだったが…数少ない通行人は、やけに周囲にびくびくし、自警団はすげえ堂々と歩いている。
これなら…自警団の見廻りは、ただの不特定多数の縛り付け。威圧的行為みたいじゃねえか」
そんな中――
視界に…1人の自警団が1人の男の腕を掴んで、何処かに連れようとしているのが目に入る。
「あれよ…オジサマじゃねえか。何で自警団が連行する?」
呟くと同時に、煌が屋根からひらりと地面に飛び降りた。
「おい、待てよ」
白い服を着た自警団が立ち止まり、
「"ガイダー"、お疲れ様です」
無表情で一礼する。
「お疲れじゃねえよ。お前らの仕事は、素行悪い若者の…風紀を正すことだろ? お前の目は節穴か? その脂ぎった禿頭と出っ腹のよれよれ男が、お前には"若者"に見えるのか?」
「これは心外。今や自警団の権限は、若者に留まらないのをご存じないとは。こいつは…壁に放尿していた罪深き者。処罰に価します」
「おい。立ちションが処罰って何だよ?」
「景観を損ねることは大いに問題。野良犬でもあるまいに」
年老いた男は真っ青な顔でぶるぶる震えている。
「じゃあ飼い犬だったらどうするんだよ」
犬に噛み付く馬鹿蜜柑。
意識的か無意識的かよく判らない。
「当然、飼い主が処罰対象」
いつの間に――
"矯正"が"処罰"に成り代わったのか。
少なくとも、櫂様が居た頃は…矯正に留まっていたはず。

