シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

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広尾とは目と鼻の先の位置にある六本木は、華やかな虚飾の中に欲望のどす黒さを隠し持つ。


六本木――。


光に覆われた朝ではなく、暗闇に紛れる夜の代名詞。

汚濁の中に仮初の優美さ、虚構に満ちた中に僅かな真実を併せ持つ。


六本木の華美さに憧れ上京した者は数多くいるけれど、その内のどれくらいが…東京の裏世界に誘われ、挙げ句生き残れているのだろうか。


六本木は、新宿と共に…裏世界の扉が開かれている街だ。


新宿を仕事上私が携わる"裏"とすれば、

六本木は人間個々の私欲に直結する心の"闇"。


様相は少々違うけれど、それを傍目から判られないように…雑踏で隠してしまうのは…新宿も六本木も同じ。


雑踏で覆い隠された表世界は、

自然淘汰される為の一時の虚栄。


表世界で人が増えれば、裏世界で破滅される人々がいる。


そして表向き――

静寂にも似た平衡を保っている。



それが私の知る六本木だったのだけれど――


「静か過ぎる…」


やはり…おかしい。


夜の街と異名を持つ六本木が、

この時間此処まで閑散しているのは異常だ。


人が居ない。

煌びやかなネオンも少ない。



此処は本当に…六本木なのだろうか。


目に入るのはただ――

見廻りのような自警団ぐらいだ。


景色が暗すぎる。


まるで――…

数日前の横須賀の街並みのようだ。