シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

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屋根伝いを走って15分くらい経過したろうか。


ようやく煌の耳から手が離れた。

げっそりとした顔つきをしている。


余程苦しかったのだろう。


犬の煌は常人より耳がいいとはいえ、そこまで彼を苛ませるだけの音を、私がまるで聞き取れないというのが奇妙すぎた。


「折角の芹霞だったのに…」


煌の頭の中は、芹霞さんだけなのか。


「なあ…あの画面から、玲の声とドレスを売り込む男の声…聞こえたよな」


ぼそりと煌が言った。


「店の宣伝で…芹霞があの格好をして、玲はあんなことを言ったんだよな?」


煌は…

音に悩まされながらも、玲様の愛の言葉は聞いていたのだろう。一言一句。


「結婚…しねえよな?

玲、追い込まれて…芹霞と結婚しねえよな。

店の宣伝に利用されただけだよな」


不安なんだろう。


「考えてみれば、玲と芹霞だけはもう結婚出来る歳だ。合意があれば紙切れ一枚でも夫婦になれちまう。最終手段として…玲がそれを敢行なんてしてたら。

なあ…芹霞、玲の嫁にはならないよな?」


翳った顔は、悲痛だ。



「結婚はしていないだろう。


あの映像の意味は多分――

玲様は店の宣伝を、利用されたんだ。

紫堂及び皇城側への…

宣戦布告だ」



玲様は――

先手を打たれたのだ。