「外見上は致命傷。あんなに派手に穴を開けられていて、それで助かるなど思う奴はまずいない。


それがお前の仲間が仕出かしたものなら…"偽装(フェイク)"もありえるが、お前を攻撃したのは――緋狭だ」


――坊は、死なねばなりませぬ。


躊躇うことなく、彼女の腕は俺の腕を貫いた。


そう――

そこには迷いなくて。


そこには憎悪が宿っているかと思われる程、まっすぐで。


途端――

俺の中の闇がざわめく。



俺は――

本当は…


緋狭さんにまで見捨てられていたのではないかと。


思い出すのは、俺から遠ざかった親父の姿。

息子を救済する気などさらさらなかった親父の姿。


緋狭さんに見捨てられることは――

親父に見捨てられるより…きつい。



凄く…堪える。



「シケた面をするな、紫堂櫂。こっちまで辛気臭くなる」



久遠は、心底嫌そうな顔をした。


「ねえ、紫堂。そんな傷で…この地まで、蓮とボクが船に君を乗せて行き着けたのは…その姉御のおかげだからね」


遠坂の声に、俺は…俯いていた顔を上げた。


蓮が、一歩俺に近づいた。


「久遠様はこの地から離れられない。だからお前を久遠様の下へと動ける私達が運ぶしかなかった。だがお前の傷は、"ニトリクスの鏡"など効力がない程、致命的過ぎた。

それに、一縷の可能性を持たせたのは、他の何者でもなく…あの赤い女のおかげだ。

あの女がお前の体内に、お前の"闇石"をねじこんだからだ」



久遠が手にしているのは…血染石(ブラッドストーン)。


この形状は間違いなく…俺が持っていたもの。