シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
痛みは何もない。


だけど…いくら力んでも、声という音は漏れてこなかった。


2ヶ月前の――

芹霞を思い出した。


同じ境遇になるとは――

そこまで深く繋がっていたのかと思えば――


笑みすら浮かべたい…俺は、余裕の心持だった。



「何だ、お前まさか…「紫堂、声がでないのか!!!?」


久遠の矢継ぎ早の言葉に押されていた遠坂。


ようやく久遠の言葉を遮ることに成功したようで。


俺は返事も出来ず…若干躊躇いながら頷くだけだった。


「かいくん、お話できないの~?」


実年齢はさておき、幼女の無邪気な顔を傾けて、俺の顔を覗き込んでくる…天使の旭。


その隣では…陽斗と酷似した顔を持つ金髪の女…蓮が腕を組んで、眉間に皺を寄せている。


久遠は――


「………」


依然紅紫色なれど、温度を無くしたような…冷ややかな目をして俺を見下ろしている。



「時間が…経ちすぎて、一部を…闇に持って行かれたか」



紅紫色の瞳が、僅かに細められる。



「持って行かれたって…なんだよ、それは!!!」


予想外といった言葉の響きに遠坂が呼応すると、久遠は手の平の何かを俺に見せた。


俺は、"それ"に目を細めた。


どうして、久遠の手に?


「いいか?

本来ならお前は完全に死んでいた。

かねてからの打ち合わせ通りの、通り一遍等の"死因"であれば、あの場に…横須賀港にて待機していた蓮が、"ニトリクスの鏡"の銀の光の力にて邪を祓い、お前を…オレがいる約束の地(カナン)に早々に連れられたはずだった。


だがお前の傷は尋常ではなかった。


腕が入る程の空洞が開いていたんだぞ、お前の胸」


俺は――


――芹霞ちゃああん!!!


8年前の…真紅色に染まった芹霞を思い出した。


――死んじゃ嫌だあああ!!!


そこまで同じ、だったのか。


奇しくも――。