「何で…せりがこの格好?」
久遠の…抑揚のない低い声。
「玲か…」
久涅は舌打ちをしながらそう言った。
「宣戦布告か…」
画面に映る玲の姿。
暫く会っていなかった俺の従兄は――
『彼女を愛してます』
俺が言いたくても言えない言葉を、笑顔ながら真剣な顔で言っていて。
俺が…抑えねばならない想いを迸(ほとばし)らせて、何一つ隠そうともせず。
そして、芹霞を妻だと呼んだ。
それに対して、芹霞は否定もせず、拒絶もせず。
その空気は…甘いものでしかなく。
そこには、俺や他を排除したような…幸せすぎる2人の空気しか流れていなくて。
俺はただ――
見ていることしか出来なくて。
画面の中の2人を…
遠くからただ見ているだけで。
――紫堂櫂を愛してる!!!
俺は――。
『お似合いのお2人でしたね』
『相思相愛っていう感じが堪らないねえ』
要らぬコメンテータの感想。
俺は――。
――紫堂櫂を愛してる!!!
何でこんな場所で。
何で――
芹霞の横には…
俺ではなく玲がいるんだ?
俺の立ち位置だろうと、芹霞を守って欲しいと望んだのは俺なれど、ある程度の妥協は必要だと覚悟はあったなれど。
――紫堂櫂を愛してる!!!
何で…2人の空気が変わってる?
セリカトレイガシンミツスギル。
何で…ドレス姿だ?
ナニカガマエトハチガウ。
――紫堂櫂を愛してる!!!
何が起きてる、2人に。
画面は他の中継に切り替わっていたけれど、俺の頭の中には、芹霞と玲が依然残っていて。
芹霞…。
会いたい。
会いたいよ。
俺だって…
俺のものだと、宣言したいよ。
芹霞…。
俺は唇を噛みしめながら…手首に巻いた布をぎゅっと抑えつけた。
暴れる俺の心を抑えるかのように。

