「そうそう、もう少ししたらヘリがくる。番組のシークレット"イベント"のセットをさせて貰うぞ」
「セット? 連絡受けていないが…」
蓮が警戒に満ちた声を出す。
「急遽の特別編成だ。なに、スクリーンを3つ用意させて貰うだけだ」
「何の為に?」
「それはその時、実際見て愉しめ。
此処はテレビが見れるのか?」
久涅の声に、頷いた遠坂が機械を操作し…画面にテレビを映した。
「ああ、番組は丁度やっているな。下らぬものだがな。
全国中継なはずだから、持ち回り時間が決まっている。
とりわけ"約束の地(カナン)"は番組のメインだから、大分長い中継時間が割り当てられて…」
久涅が中途で言葉を途切れさせたのは――.
「!!!?」
大画面一杯に、芹霞が映ったから。
『可愛らしい花嫁さんですねえ』
『あの一瞬の早変わり、もう一度見てみましょう。VTR…』
芹霞が…。
あんなに会いたかった俺の芹霞が…。
こんなに大きく。
芹霞が…。
こんなに綺麗な、花嫁の…。
心から熱さが…溢れそうだ。
あまりの愛しさに、泣きたくなってくる。
「駄目だよ、抑えて」
遠坂が小声で俺を制する。
ああ俺は――
紫堂櫂として、
お前を12年間想い続けているただの男として、
画面に映るお前に近付いて、ゆっくりと想いを馳せて見つめることも出来ないのか?
こんなに近くに芹霞がいるのに。
俺は――
紫堂櫂としての12年の想いを抱いたまま、
お前を映し出す画面にすら、近寄ることが出来ないのか?

