「く、久遠様…」
弱々しい声が聞こえたと思ったら…蓮だった。
久涅に殴られたのだろう腹を押さえて、よろよろと現われ…
「!!!?」
そして俺を見て呆然とした。
それは凄い驚きようで。
「れれれれ蓮!!! 大丈夫か!!?」
遠坂がいつもの2倍増しの速度で蓮に抱きついて、何やら囁いている声が聞こえる。
俺のことを言っているのだろう。
ああ、全員に前で…こんな醜態晒すなんて。
絶対…芹霞には知られたくない。
「もういいかな、久涅。テレビ来るのはもう少しだろう? 支度したいんだけれど。どうせ此処もテレビ入るのなら、続きはその時でもいいだろう?」
「………。ああ、判った。テレビ中継で、色々お前に…隅々まで案内して貰うから、今はこの辺でやめておく。下に行こう」
そう、久遠と久涅はくるりと俺達に背を向けて。
俺は遠坂と蓮と素早く顔を見合わせて、息をついたが…
「ふ、そうそう。テレビには…凜も出て貰おう」
「「は!!?」」
遠坂と蓮は同時に素っ頓狂な声を出した。
嫌だ。
女装なんて…こんな姿、全国に晒したくない。
俺はぶんぶんと頭を横に振った。
「テレビに映れば…凜の家族から連絡が来るかも知れない。中々いいアイデアだろう…久遠」
違う。
そんな慈愛深いことを考えている訳ではない。
まだ疑いは晴れていないのか。
或いはもっと――
俺は直感したんだ。
「テレビが…愉しみだな」
久涅は――
何かを狙っている。
何かが起る。
何だ?
これは予感。

