「生まれ変わりというものが、肉体を変えることで…1つの魂が移動していることを指しているのなら、"生きて"いるだろうな。

だが、肉体が滅んだことで魂が終焉を迎えると考えるのなら、一縷という前カリスマ教祖の肉体がない限りは、"死んで"いるのかも知れない。

とにかくは…2つの肉体に…1つの魂が行ったり来たり出来んと考えるのが世の常識なら、"隠れて"いる前カリスマ教祖か、その記憶を持つという"マスター"のどちらかが、虚偽だということだ」



あたしは思い出す。


オッドアイの計都に抱かれていた小さい子供。


あの子供が一縷の記憶を持つというのなら。


あれが一縷本体なのだとしたら。


やはり、カリスマ女子高生としての一縷は死んでいるのか。


そして、今度は肉体を変えて…

黄幡会を…声だけが導いているというのか。



「俺は、"マスター"と"境界領域下刺激(サブリミナル)"の周波数を合わせてみる。本来なら黄幡の得意分野なんだがな。あ、黄幡…同じ漢字?」


「計都は…君の部下なのか?」


「アルバイト募集で選考したのは俺だ。K大で音響を専攻しているらしく、大手のテレビ局のバイトも掛け持ちしているらしいし。この業界、いちいち説明している暇なくてな、即戦力はありがたい」


「計都、専攻は数学…じゃないんだ」


「数学? ああ、そういえば…桐夏の数学教師で入ったんだっけ?」


「うん。だけど音響が得意だったんだ。数学は趣味なのかな」


「数学と…音響? そして"境界領域下刺激(サブリミナル)"…」


そして玲くんは少し考えて、ポケットから何かを取出した。


「金の万年筆…って、自警団の?」


頷いた玲くんはそれをクマ男に渡した。


「これに…Zodiacの、君が正体が掴めなかったという、機械音をあてて見てくれないか?」


「これに?」


クマ男は首を捻りながら、


「判った。一緒に…といいたい処だが、APEXの音響部屋は1人しか入れないからな。ちょっと行ってくるわ。また愛しの嬢ちゃんでも見ていてくれや」


クマ男は、ばっちんと派手なウインクを玲くんに投げていなくなる。