「まだ…結婚なんて、君には遠い次元の話だろう。
まだ結婚までは考えなくてもいいから…
僕に…幸せな思い出を頂戴?
一緒に…2人の思い出を作ろう?」
思い出。
あくまでもあたしは思い出。
「僕と…君だけの…」
時間がくれば忘れられるもので。
現実に留まれない、期間限定の記憶。
ひと時の夢の話のように。
「僕を…君の大切な…あの箱に入れて?
僕を…切り捨てないで…?
僕との思い出を…
儚い記憶の欠片にしないで」
夢。
そう思ったら、
心が壊れそうな程、軋んだ音をたてた。
夢。
夢。
夢。
玲くんとは…夢で終わってしまうんだろうか。
嫌だ。
そんなの嫌だ。
「上に行こうか。
今頃…焼き増ししてくれているはずだし…僕の頼んだものの結果もわかるだろうし」
玲くんは…
あたしがこんな風に思っていることに気づいていないんだろうか。
玲くんがあたしに何を求めているのかよく判らない。
あたしが玲くんに何を求めているかも判らないのに。
ただ判ることは――
ひと時で終わる関係にはなりたくないということ。
「どうしたの? また甘えっ子?」
腕にしがみついたあたしの頭を撫でてくれる優しい玲くん。
「いいよ、もっとおいで?」
我侭なのかな。
生意気なのかな。
こんな和やかな時間が、ずっと続けばいいのに。
思い出に…しないで欲しい。
そう――願うことは赦されるよね。
欲求は溜まれども…
それはどうしても言葉にはならなくて、唇を噛み締めた。
あたしは――
久遠のような言霊遣いじゃない。
言葉にしても叶わなければ、
空しいだけだから。
だから、言えなかった。

