「チーフ!! 出来上がったと上に内線入れました!!」

「……ちっ!!」


自分で指示しておいて、報告を聞いた途端に、更に大きな舌打ちだ。

しかも酷く憎憎しげにあたしを睨み付けてくる。


だから、それならやめようよ。


とりあえず鏡を見ていないから、今自分がどんな格好なのかさっぱり判らないのが不安だ。


呉羽チーフに、いつも以上に見るに絶えない酷い格好にされてしまっているんじゃなかろうか。


一抹の不安が胸を過ぎる。


…スタジオの外ががやがやと騒がしい。


人が増えている。


それも店の客ではなく…明らかに異質だ。

むさい男達が、大きなテレビカメラを持っている。


やだ、こっち向いてるじゃないの!!!


判った途端、呉羽チーフはにこやか顔に変貌だ。


大人って凄いね…。

凄いのは、元総長だからなんだろうか。


カメラの向きが変わる。


その向きの先では、マイクをもった女性が照明を浴びながら
にこやかに何かを喋っていて。


此処からでは何処の誰か、何を話しているのか判らないけれど…



『流行とびつき隊』


今回のレポーターは彼女なんだろう。

腕に赤い腕章が巻かれている。


やばい。

本当にやばい。


あたし…こんな姿で全国放映!!?

しかも鏡見てもいないのに、何で!!?


スタジオから店員が外に張り付いて、

硝子張りの仕切りは人壁となり、向こうが見えなくなった。


だったら…

今のうちに逃げ出そうか。


あっちに…ドアがある。

何のドアか判らないけれど…。


そろり、そろり…。


裾を摘んで、あたしは…




「支度出来たって?」



突然、そのドアが開いて玲くんが入ってきた。