「チーフは、3,000人の頂点に…」


従業員の声に、また緊張した空気が走る。


そんな人が、何でこんな婦人服店で"チーフ"なんてやっているんだろう。


従業員の動揺はよく判る。


「どうだ、びびったか、小娘」


にやりと…毒々しいほど赤い唇を意地悪く歪ませた。

まるで緋狭姉のようだ。


カミングアウトしなきゃ、もっと長く堅気生活できていたものを。

ああ、従業員さん…引いちゃってるじゃないか。


仁流会系列となれば、爺ちゃんを知っているのだろうか。

あたしはそちらの方が気になって。


「仁流会の爺ちゃん親分、知ってますか? 

最近遊んでないから…まだ元気ですかね?

落ち着いたらまた"銀恋"デュエットに行こうっと」


途端、呉羽サンの目が恐怖に見開いた。


「爺ちゃん親分って…あの鬼の"組長"!!?

遊ぶ!!? デュエット!!!?

小娘、一体何者だ!!!?」


「は? 神崎芹霞といいますが」

「名前ではない、何者だ!!?」


「へ? 17歳の女子高生…所属は庶民です」


それ以外に何もいい様がなく。


玲くんは、次期当主。

煌は、護衛役…および飼い犬。

桜ちゃんは、警護団長。


いいなあ、皆肩書きあって。

あたしなんか、一番ハクがつかない"庶民"だ。


「ちっ!!!」


派手な舌打ちを寄越したお姉さん。


「肝の座った小娘だよッッ!!!

山下!!! 上階APEXに出来たと内線!!

そして忌々しい内線叩き割れッッ!!!」


この凄みは…煌に通じる。


結構な修羅場を潜り抜けてきたんだろう。


そこまであたしが嫌いなら、やめてくれればいいのに無視。


「……――ちっ!!! 

ボーナス査定がなければなんでこんな生意気な小娘…」


元総長なれど、踏み込んだ大人の世界にも色々あるらしい。

社会事情は複雑なんだと、あたしも覚えておかないと。