「とにかく、あの草だけでもかなり残留性のある独特の匂いだ。折角由香が台所を片付てくれたが…旭、久遠様に言われてあの草持参するのに、ひっくり返したろう…イロイロと」


「うん。ひっくり返して、草ばらまいて~、さっきその上から"ぽてち"零して、拾おうとしたら鍋もひっくり返して、司狼と中身ぶちまけた~。

きゃははははは~」


きっと惨状だ。


「鍋の中身も草も露見されてる台所に、一度足を踏み入れれば…久涅でなくとも、怪しすぎることをしていただろうことは一目瞭然」


「旭!!どうしてお片付けして来なかったんだ!!!」


「久遠様が放っておけば綺麗になるっていつも言うから。きゃはははは~」


ああ、絶対…面倒臭がり主のせいだ。


放って置いて勝手に綺麗になどなるものか。


綺麗になるのは――

蓮が片付けているからだろう!!


「薬草学にあかるければ、あの草を見ただけでも…何を目的として何を作ろうとしていたか推測出来るだろう。それだけ効果が限定的な特殊過ぎるものを、久遠様は作られていたのだ」


そんなに凄いモノだったのか、あの苦い草は。


「不味いな、不味いぞ? この屋敷はレグの家を広げたものだ。今、此処の機械室は2階ほぼ全フロアに渡り、あとは私の部屋と洗面所だけしかない。そして1階には全ての部屋が集中している。久遠様は今1階の浴室で入浴中。久涅に2階に上ってこられたら、実質上逃げ場がない。

唯一の頼みは、セキュリティシステムが効いた、3つの防護扉。あれが無効化されて機能が止められない限りは…」


無効化。


どうなのだろう。

久涅の力は、電脳的なものにも及ぶのだろうか。


「微妙だね、紫堂。蓮、久涅の力は"無効化"なんだ」

「何だと!!? だったら、先に紫堂櫂だけでも逃がすか…」


「あの"怖いかいくん"、鬼ごっこの鬼してるの~?」


旭の声にはっとした俺達は、再び画面に目を向けた。


そこには、居なかったはずの久涅の姿が映っている。


それは…客間に次々に出入りしている姿で。


まるで何かを探しているようだった。


久涅は――

感付いているのだろうか。