僕の母親は狂死。
櫂の母親は追い出されて病死。
愛のない…そんな家庭を築けというの?
僕の父親の行方は判らない。
僕が失脚した後、行方が判らなくなった。
気にならない程、僕との接触は少なかった。
失脚した僕が追い出されなかったのは、櫂の庇護下にいたから。
僕は、まるで実の父親のように…年下の櫂に守られていたから。
そう。
愛とはそういうもので。
血の繋がりに愛が生じるというのは、正しくそういうもので。
愛のない子供がただ増えいく不気味な様は…そんなものは電脳世界の"虚数"と同じ。
食らうか食らわれるか、そんな醜い戦いを繰り広げるだけ。
結婚相手は…僕が選びたい。
そんな…押し付けられたような、
愛のない結婚なんてしたくない。
そして。
櫂もそんな結婚をさせたくない。
櫂が戻り、僕がこの肩書きを櫂に返せば…同じ問題があいつに降りかかる。
かと言って"次期当主"を今久涅に渡そうものなら…災難は妙に執着してる芹霞に降りかかる。
実権は久涅の手にあるとはいえ、"次期当主"の肩書きの力で何とか守れているものが、全て無効になる。
久涅の力を…抑え切れなくなる。
僕が結婚話を潰すしか出来ない。
櫂を守れるのは僕だけだ。
芹霞を守れるのは僕だけだ。
櫂だって、親からの愛情を受けて育ったわけではない。
櫂は、芹霞と…神崎家全員によって育てられた。
だったら余計――
"注がれる"愛を知るあいつには、
愛のない父親に変貌させたくない。
そんなのは僕で十分だ。
そう思えども。
僕が泣く。
愛が欲しいと。
僕は結婚したくない。
櫂も結婚させたくない。

