「……よ」
それまで一言も発しなかった煌の口から、何か言葉が漏れている。
芹霞はその言葉如何により、いつでも…このまま続行可能な高い位置で、振り上げた手を宙で止めている。
煌が…ぶち切れたのか?
此処からではよく判らない。
僕も桜も、万が一に備えて身構えた。
「………れよ」
俯いている煌の髪の毛が、言葉に呼応するように…微細に揺れた。
そして――
「許してくれ、俺が悪かった!!!
――緋狭姉ッッッッッ!!!!!」
そして橙色の大男は――
その場で頭を抱えて土下座の態勢に入った。
ガタガタガタガタ…。
「緋狭姉――
――許してくれッッッ!!!!」
恐怖に掠れきった…煌の命の懇願。
小刻みに身体を震わす姿は。
まるで子犬…チワワあたりが萎縮したようなその姿は。
紛れなく――
純なる極度の"恐怖"を体現していた。
煌にそこまでの"恐怖"を植え付けたのは、
薬による効果だったのかどうか――
僕は判らない。
だけど判ることは。
やはり、緋狭さんは煌にとっては"最大恐怖"の対象で。
そして、芹霞はそんな緋狭さんの妹で。
僕…芹霞にこんなことをされたら、
多分――立ち直れない。
だけどそれで愛情が薄れるかどうかは、
別次元の話…だけどね。

