「玲くん、拷問は止めて」
それまで俯いていて、煌の話題を聞いていた芹霞が言った。
その声は固く…微かに震えている。
そりゃあ…芹霞にとって、"選別"にしろ"無差別"にしろ…煌のしでかしたことは、辛い事実だよね。
気持ちはよく判る。
だけど早くそれを"現実"と捉えて、これ以上の犠牲を出さぬよう…僕達は仲間として最善を尽さないといけないんだ。
「玲様。実は緋狭様より…煌の能力を下げる薬と、恥ずかしながら…私の能力を上げる薬を頂いております。これを使い、玲様のお手を汚さずとも…拷問なら、代わりに私が…」
それは桜も感じ取っているはずだ。
しかし――
「桜ちゃん、拷問は止めて」
現実を許容できない芹霞が、そうやはり震えた声で反対する前に――既に桜は行動を起こしていて。
煌にその薬を飲ませていた。
電気を通さぬ、裂岩糸を駆使しながら。
見事なモノだ。
糸も立派な拷問道具に使えそうだ。
うん。
これからは、桜でもイケるかな。
そう…思った時だった。
「は!!!? 芹霞さん…ちょっと!!!?」
慌てた声を出した桜の視線の先。
芹霞が…桜が持っていたもう一つの小瓶を手にしていたんだ。
「ダメ。させないッッッ!!!」
ああ、芹霞は――
煌が痛めつけられる様を見たくないんだ。
僕はそう思った。
8年前の地獄図を描いたのが煌であっても。
それから8年後にまた命を狙われても。
芹霞と煌の絆は、断ち切れる弱いモノではない。
ああ、なんて羨ましい。
僕は目を細めてしまう。
僕の存在を信じてニセモノを煌に斬らせたことを聞いても、それでもまだ"僕だけ"という特別性をもたせたい僕は、誰よりも"それ以上"を望んでしまう。
ああ、望みとは…なんて際限なく拡がるモノなんだろう。

