由香ちゃんは、仮に僕と対戦していると判っても、本物の僕がゆんゆんと闘っているなどとは思わないだろう。
僕だって思わない。
そしてまた悪いことに――
彼女は負けず嫌いだから、毎回僕相手に全力で闘いを挑んでくる。
それが格闘ゲームじゃなくても、例えば花札でもオセロでも。
ああ、常識的に考えて。
何でもありの二次元キャラ相手に生身の僕が闘った処で、どちららに分があるかなど簡単に判る。
勝敗だけで終わればいいけれど、由香ちゃんの奥義を食らえば、僕自身…命がやばい気がするんだ。
だけど由香ちゃんは、勝ちにいこうとするだろう。
ああ、昨日の友は今日の敵。
そんな中、必死に考えたんだ。
僕だということを伝えようと。
彼女が電気が繋がる処にいるのだとすれば、それは"約束の地(カナン)"の可能性が高い。
其処には櫂も…久遠も、誰かいる。
誰かが気づいてくれる。
言葉が通じぬ世界に僕はいるけれど…由香ちゃんが、電脳世界の…0と1を理解出来るのなら。
だから考えた二進法。
"ZERO"たる僕が0、由香ちゃんを1として、それを言語として繰り返させた。
頼む。
判ってくれ、由香ちゃん。
引いてくれ、由香ちゃん。
だけど彼女は判ってくれていないようで…その暗号のような格闘パターンを崩そうとするし、奥義を炸裂するし。
まるで引く様子はない。
一応僕…『白き稲妻』と異名を持ち、先手必勝する速度はあったはずなんだけれど、今はそんな優位性すら役に立たず、無様に逃げ惑いながら、何とか奥義を発動するタイミングを狂わせて、伝言を紡ぐパターンを守るのに必死で。
情けない。
今まで、こんな…効率悪い闘い方なんてしたことがない。
今までのAPEX方式において、決勝戦はHPゲージは予選本選の五倍になっているだろう。
"基本形"だけでは、0に出来ない。
結界に力を注いでいる僕には、絶対勝てない。
僕が生き残る為には…由香ちゃんに負けて貰うしかないんだ。

