さすがに煌も痺れをきらしてきたようだ。
左右に小刻みに動けば、さすがの煌も易々と標的を捉えきれないらしい。
戦闘で勝ちに拘りさえしなければ…幾らでも切り抜けられる道はある。
煌と戦わずに居られる方法がある。
「どうですか、芹霞さん。玲様は…!!?」
私は――玲様の気配を感じ取れない。
しかし芹霞さんが、玲様を感じ取られたという事実があるのならば、私はそれを無視してはいけないと思う。
彼女は普通人なれど…緋狭様の妹だ。
「ん…桜ちゃん。この会場にはいるとは思うけれど…此処じゃない。玲くんは…この直ぐ近くの、違う場所にいる気がする」
「近く…後は、大画面の裏しかないですが、先刻は玲様の気配はありませんでしたが…」
「大画面の裏…? あの気分が悪くなる画面の…裏?」
「芹霞さんも気分悪くなりましたか。あの画面と…音楽に」
芹霞さんは少し考え込み、
「桜ちゃん。行ってくれる?
何だか、そこにいる気がする」
「え? だから居なかったと…」
「ううん。居る。あの音楽と大画面の気持ち悪さを隠れ蓑にして。きっと玲くんは…居る」
そうして煌から逃れるように赴いた画面の裏側。
だけどやはり玲様は居なくて。
画面裏は、音響を制御する機械に溢れた狭い空間。
上を見ても下を見ても、人影は全く見当たらない。
そんな中――
芹霞さんは1つをじっと見つめていた。
それは…機械のスイッチが多く貼り付けられた、壁。
「どうしました?」
「うまくいえないけど…あの場所…イヤだ」
そう芹霞さんは顔を歪めて。
真上から煌が振り下ろした偃月刀を避けながら、私もそこを見つめる。
瘴気…?
確かに、瘴気は感じるが…会場内の瘴気に比べれば弱いモノで。
そして突如芹霞さんは叫んだ。
「煌のバーカッッ!!!」

