まるで追いかけっこだ。
視界にちらつく橙色と刃物の銀色。
天井から降り注ぐ風と雨が私の髪を揺らす。
煌の動きとタイミングを合わせろ。
煌と…伊達に同じ修業をしてきたわけではない。
目で追えぬなら、心で感じろ。
これだけの殺気を露にしているのなら、容易に気配は捕まえられるはずだから。
緋狭様の元で、何度も・・・私と煌は、"気"をあわせて"同期"させる修業をした。
今思えば、その修業があったからこそ…私は心で煌が感じ取れる。
何でこんな胡乱な男と"合わせ"ないといけないのか、その時は内心不服だったけれど。
中々――
面白いじゃないか。
お前の姫を私が奪い取り、何処までもさらって逃げ続ける。
本来"強奪者"は面構えからしてお前に相応しい役だろうけれど、ミスマッチな配役も、たまには気分がいい。粋というものだ。
こんな時。
こんな殺気と瘴気の中、笑みを浮かべる私もどうかと思うけれど…お前と同調しているのなら、少しぐらい楽天的になってもいいじゃないか。
芹霞さんの"あわわわ"という声を聞きながら、ひょいひょいと避けていく。
不思議と…判る。
心で煌を掴めば、次に如何動くのか…私の心が察するから。
目に頼りすぎたからこそ、煌の動きについていけないというのなら。
私は心を使って、煌を翻弄しよう。
私だって長年、鍛えてきたんだ。
煌に勝る腕力や速度がなくても…小さい故の敏捷性は在る。
偃月刀が振られるその一瞬の隙に、私は動くことが出来るから。
煌の意識を掻き乱せ。
煌に"悟られぬ"ように、意識を撹乱して走り回れ。
まともに相対して、煌を叩きのめすことだけが…"勝ち"ではない。
頭を・・・使うんだ。

