シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
芹霞は黙り込んだ。


「もう…傷つけないから」


その沈黙が――


「もう一度、僕を信じてよ」


凄く怖くて。



「挽回のチャンスを…頂戴?」



狂い出しそうな痛みが全身を駆け上る。



僕は笑った。

泣きながら笑った。



芹霞が握りしめるバングルを、

無理矢理手にとり…つけたんだ。



「ありがとう、芹霞。嬉しいよ?」



芹霞からの反応はなく。

まるで僕の独り言のように。



「君だと思って…大事にするからね」



欠けた月長石。

壊したのは僕。


"大事にする"なんてあまりに滑稽だけれど。


僕は、バングルに口付け、愛を捧げた。


どこまでも雨で冷えた冷たさが、僕の戦慄(わなな)く唇に伝わった。


脳裏に…手首に巻いた布に口付ける…櫂の姿が思い浮かぶ。


万が一のことを思い、芹霞の想いを聞いても…答えなかった櫂。

極限状況の中で、芹霞の幸せを願い、自らの愛を黙して伝えた櫂。


溢れる程の想いに、共感する。



「僕も…芹霞にプレゼントしたいなあ」



また涙が零れ、声が震えた。



「お揃いのブレスレットにしようか?」


笑う僕に、凍えそうな雨が降り注ぐ。


もう…"指輪"と口に出せない僕の心は、荒れ狂っていて。



芹霞からの返答はなかった。


そして僕は、ずっと笑いながら…黙り込んだままの芹霞に語り続ける。



愛しい恋人との会話のように。

少し前までの、あの甘い時間を思い出しながら。


近くにいるのにこんなに遠い。


虚しいだけの1人芝居。


失った時は戻らない。


ねえ…芹霞。


戻って来てよ。


口を開いてよ。


"玲くん"って呼んでよ。

可愛く頬を赤く染めてよ。



無理矢理、"お試し"を続けさせて…"恋人"に縛る僕に投げられた芹霞の言葉は…



「……雨、降ってきたね」



僕の想いとは交わることのない、とりとめのない言葉だった。