シンデレラに玻璃の星冠をⅡ



「嫌だッッ!!!」


僕は走った。


広い敷地内を走った。


心の酸欠で頭がくらくらする。


心臓が不穏な動きを見せて、僕は…乱れた息の中で、ニトロを呑み込んだ。



倒れちゃ駄目だ。


芹霞を迎えに行かないと。


このまま終わらせてたまるか!!!



そして見つけた芹霞は…

久涅と一緒に居たんだ。


何で久涅!!?


僕が次期当主になってから、久涅に対して異常な警戒心を抱いていた。


久涅は、僕が居ない間に芹霞に接触しているが…本気で力尽くで奪いにいかない。執着を見せているにもかかわらず。


櫂を追い詰め、欲望を顔にぎらつかせる男。


僕はその男に傅(かしづ)き、当主と久涅に言われるがままに振る舞っている。


次期当主の実権は久涅に。


だけど上辺の次期当主たる僕は、出来る範囲内で芹霞を守っていた。


久涅は芹霞に不埒な真似をすることはなく、芹霞に対しては穏やかな表情をするようになり、そして僕の姿を見ると嗤って消える。


久涅の思惑が何も判らない。


その久涅がこの場所にいて。

それが偶然とは思えなくて。


何より僕は、芹霞のにこやかな顔を見て…久涅の中から櫂の姿を見たんだ。


僕がどんなに必死になっても、芹霞は櫂に吸い寄せられるのだと。


ウンメイダカラ?


それは僕にはどうにも出来ないことなんだと。


エイエンダカラ?


させない。


芹霞は僕のものだ。

僕の"彼女"だ。