「嫌だッッ!!!」
僕は走った。
広い敷地内を走った。
心の酸欠で頭がくらくらする。
心臓が不穏な動きを見せて、僕は…乱れた息の中で、ニトロを呑み込んだ。
倒れちゃ駄目だ。
芹霞を迎えに行かないと。
このまま終わらせてたまるか!!!
そして見つけた芹霞は…
久涅と一緒に居たんだ。
何で久涅!!?
僕が次期当主になってから、久涅に対して異常な警戒心を抱いていた。
久涅は、僕が居ない間に芹霞に接触しているが…本気で力尽くで奪いにいかない。執着を見せているにもかかわらず。
櫂を追い詰め、欲望を顔にぎらつかせる男。
僕はその男に傅(かしづ)き、当主と久涅に言われるがままに振る舞っている。
次期当主の実権は久涅に。
だけど上辺の次期当主たる僕は、出来る範囲内で芹霞を守っていた。
久涅は芹霞に不埒な真似をすることはなく、芹霞に対しては穏やかな表情をするようになり、そして僕の姿を見ると嗤って消える。
久涅の思惑が何も判らない。
その久涅がこの場所にいて。
それが偶然とは思えなくて。
何より僕は、芹霞のにこやかな顔を見て…久涅の中から櫂の姿を見たんだ。
僕がどんなに必死になっても、芹霞は櫂に吸い寄せられるのだと。
ウンメイダカラ?
それは僕にはどうにも出来ないことなんだと。
エイエンダカラ?
させない。
芹霞は僕のものだ。
僕の"彼女"だ。

