「だが、心は判らないでもない。紫堂に…"あいつ"に振り回される心はな」
遠くを見つめ、細められた漆黒の瞳。
「"あいつ"?」
久涅は答えず、代わりにあたしの鞄から雑誌を取り出した。
「何で人の鞄から次々にモノを盗む!!!」
あたしは雑誌を取り返す。
「紫堂の家を出るのか?」
固い声だった。
「うん。玲くんの温情にいつまでも甘えていられないし、バイトでもしながら…あ、そうだ。家決まったら、保証人になってくれない?」
本当は玲くんに頼むのがベストだろうけれど、何だか言いづらい。
いいやこの際、成人してれば誰でも。
「ふうん? この俺に、"借り"を作るんだな?」
「なにその顔。い、いいよ…違う人に頼む」
「保証人がいらない物件があるぞ。
広い間取りに素晴らしい景観。
更には家賃は無料だ」
「本当!!?」
「俺と、いい場所に暮らせばいい」
途端にげんなりして項垂れた。
「ごめん、今…久涅のジョークに笑ってられる余裕ないんだわ」
「ジョーク? どこら辺が?」
玲くんへのバングルを人差し指でくるくると回転させた。
「はあ!!? って、ちょっ…乱暴に扱わないでよ!!!」
しかしあたしの伸ばした手は、久涅に届かない。
くるくる、くるくる。
「なあ、俺のは?」
それは突然。
「俺のだ」
切れ長の…流し目を寄越された。
くるくる、くるくる。
「は?」
手を広げられる。
どうやら…アクセサリーのことを言っているらしい。
土産を寄越せと言うのか。

