「で、どうだったんだ。麗しの"玲くん"との"お試し"は」
突然、そんなことを聞いてきた。
何だかこの人には、筒抜けらしい。
いつ、"お試し"のことを知ったのだろう。
「その面見れば…結果は判るがな。
玲如きでは、お前を満足させられないんだろう?」
「…違うよ。あたし如きが、玲くんを満足させられないんだよ」
久涅は薄く笑った。
「何だ…珍しく逃げ腰か。玲はそれに納得したのか?」
「すると思うよ。…住む世界が違えば、どうしようもないじゃん」
久涅は鼻で笑った。
「住む世界…ねえ。俺に平気で噛み付いて啖呵を切る程、威勢のいいお前が…そんな殊勝なことを言い出すとはな。だからきっと嵐が来そうなんだ」
くつくつ。
何て失礼な男!!
そう思いながらも…
ああ、そうだ。
こいつも紫堂の坊ちゃんだ。
しかも血筋は玲くんよりもいいはずで。
本来なら久涅との方が、住む世界が違うのか。
だけど何だろう、彼は紫堂の世界には馴染まない気がする。
どちらかといえばあたし側の…似て非なる別世界。
「ほ、ほぇあ~あ~ゆ~ふろ~む?」
何故か口に出たのは怪しい言語で、久涅に思い切り顔を顰められた。
「…Japan」
流暢な単語1つで終わってしまった。
何か…寂しい…。
「本当に変な奴だな、お前は…」
思い切り不審者扱い。
もういいの、放っておいて。あたし、疲れてるの。
そしてふと気になった。
――俺に平気で噛み付いて啖呵を切る程、威勢のいいお前が…そんな殊勝なことを言い出すとはな。
「あたし、いつ久涅に啖呵切ったっけ?」
きょとんとして聞けば、久涅は笑うだけだった。
少し沈黙が続き、冷たい風が前髪を揺らした。
不思議と、こうした沈黙が気にならない。
何だか、昔から見知った人みたいだ。
5日前に初めて会った人なのに、凄く話しやすい。
外見はチンピラなんだけれど、人ってみかけによらないや。

