王子様は相応しいお姫様を迎えに行く。
御伽噺どおりに。
それがあたしではなかっただけのこと。
それに対して"失恋"を味わう前に、こんな虚しい"お試し"はやめなきゃ。
玲くんに依存しすぎていた自分を、立て直さなきゃ。
玲くんが居なくても大丈夫なあたしにならなきゃ。
「自立しなきゃ…な」
そうぼやいた時だった。
「自立には、お引越しが一番ですよ~」
目の前の青い制服を着たにこやかな女性が、手にしていた雑誌を差し出した。
『幸せの斡旋者(煽り用)☆』
雑誌には…『快適な1人暮らし』と大きな題字が。
「新しい門出に、乾杯~」
そう言うと去っていった。
緋狭姉と煌と暮らしていた神崎家は、火事にて崩壊。
あたし以外は行方不明。
あの楽しかった日々は…戻らない。
玲くんとの思い出同様、戻ってこない。
「転機…なのかなあ」
環境を変えて、1人で生きれるようにしないといけない…そんな時期なのかもしれない。
雑誌をパラパラみても…余り実感がわかない。
あたしが1人暮らしね…。
昔から騒がしい環境だったから、1人というのは想像できなくて。
「いいや、後で見てみよう」
あたしは鞄に丸めて突っ込んだ。

