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太陽も大分傾いてきた頃、光を隠すような鈍色の雨雲が広がってきた。
雨が降るのかもしれない。
余計に気が滅入る。
「ああ…これからどうしよう」
無我夢中で走ってきて…何処に来たのか判らなくなってしまった。
あたしの感覚で戻ろうとしたら、益々変な処に出てしまった。
でも救いは、目の前に見えるドーム状の建物に、人だかりが出来ていること。
即ち此処は、S.S.Aにおいても目立つ場所のはずで。
さすがにこのまま帰るわけにはいかない。
あたしは別に玲くんと喧嘩別れしたいわけでもないし、元はといえばあたしが勝手に泣いて飛び出してきただけで。
多分――玲くんは心配して探している。
「携帯…置いてきちゃったしな…」
迷子センターなんぞ、あるのだろうか。
ないならもう…玲くんに見つけて貰うのを待つしかない。
あの宝石店には行きたくないし、行ける自信もない。
「何で…こんなになっちゃったんだろ」
だけど、早かれ遅かれ気付いたはずで。
いや…気付いていたはずなんだ。
紫堂財閥の次期当主と庶民が一緒にいることがおかしい。
いれると夢見ることがおかしい。
だから周囲から飛んできた嘲りの眼差し。
それは嫉妬だけじゃない。
住むべき世界が違う。
今はこれくらいの"実感"で済んでいるけれど、一緒に居ればいるだけ…現実を思い知ることになるのだろう。
あたしの望む世界に、玲くんが居ないことに。
あたしの世界を作ってくれたのは、玲くんなのになあ。
――いいかい、芹霞。まずは公共料金の支払方法。
――はい、"つもり"貯金。
――ぶり大根の作り方はね…。
庶民の世界に馴染んでいたと思ってたのに、やっぱり玲くんの血筋は、物足りなかったのかなあ。
あたしは庶民の世界に玲くんが居てくれて嬉しかったのに。

