シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
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太陽も大分傾いてきた頃、光を隠すような鈍色の雨雲が広がってきた。

雨が降るのかもしれない。

余計に気が滅入る。


「ああ…これからどうしよう」


無我夢中で走ってきて…何処に来たのか判らなくなってしまった。

あたしの感覚で戻ろうとしたら、益々変な処に出てしまった。

でも救いは、目の前に見えるドーム状の建物に、人だかりが出来ていること。

即ち此処は、S.S.Aにおいても目立つ場所のはずで。


さすがにこのまま帰るわけにはいかない。

あたしは別に玲くんと喧嘩別れしたいわけでもないし、元はといえばあたしが勝手に泣いて飛び出してきただけで。


多分――玲くんは心配して探している。


「携帯…置いてきちゃったしな…」


迷子センターなんぞ、あるのだろうか。


ないならもう…玲くんに見つけて貰うのを待つしかない。

あの宝石店には行きたくないし、行ける自信もない。


「何で…こんなになっちゃったんだろ」


だけど、早かれ遅かれ気付いたはずで。

いや…気付いていたはずなんだ。


紫堂財閥の次期当主と庶民が一緒にいることがおかしい。

いれると夢見ることがおかしい。


だから周囲から飛んできた嘲りの眼差し。

それは嫉妬だけじゃない。


住むべき世界が違う。


今はこれくらいの"実感"で済んでいるけれど、一緒に居ればいるだけ…現実を思い知ることになるのだろう。


あたしの望む世界に、玲くんが居ないことに。


あたしの世界を作ってくれたのは、玲くんなのになあ。


――いいかい、芹霞。まずは公共料金の支払方法。

――はい、"つもり"貯金。

――ぶり大根の作り方はね…。


庶民の世界に馴染んでいたと思ってたのに、やっぱり玲くんの血筋は、物足りなかったのかなあ。


あたしは庶民の世界に玲くんが居てくれて嬉しかったのに。