シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
あたしは玲くんに小声で囁いた。


「玲くん、此処の凄く高いの。…あたし別に指輪なんていらないから。出よう?」


すると玲くんの顔が益々強張った。


「君が必要なくても、僕には必要なんだ!!!」


空気に…妙な緊張感が走る。


玲くん…どうしちゃったんだろう。


何だか凄く苛立っているようで。


「君には"たかが"アクセサリー"かもしれないけれど、僕にとっては重要なことなんだ」


たかが…とは思っていないよ。


だってあたしだって、買ったバングルに…感謝の気持ちを込めたんだもの。


というか…さっき買ったバングル、見劣りしちゃう。


「何? もっと高い物が欲しいの? じゃあ強請(ねだ)ってみてよ、可愛く」


ゆっくりと…向けられたのは冷笑。


本能的に思った。


あたしと玲くんって…価値観が違うのかな。


だけどあたしの節約の先生は玲くんで…。


「君が欲しいものは何でも買って上げるよ? 世界で1つしかないものがいい? 買って上げるから…だから強請ってみてよ、僕だけに!!!」


"買って上げるから"


あたし――

そういう…手軽な女に見られていたのかな。


それとも――

次期当主になったら、変わっちゃったのかな…。


「僕といるのに、違う奴を考えるなッッ!!」


意味が判らない。

玲くんの変貌の理由が判らない。


壁が…見えてしまった。



「何か…玲くんとは、

棲む世界が違うんだね」


思わず…ぽろりと零れてしまった。


玲くんが遠くなった気がして寂しくなって仕方が無かった。


前の玲くんの方がよかった。

1本50円の大根買いに行く玲くんの方がいい。


あたし他に何もいらないから。

あの時の時間に巻き戻して欲しい。


思わず――



「芹霞!!!?」


ほろりと涙が零れた。


見開かれる鳶色の瞳。


何だか恥ずかしくて悔しくて――


あたしは走って店内から出たんだ。