あたしは玲くんに小声で囁いた。
「玲くん、此処の凄く高いの。…あたし別に指輪なんていらないから。出よう?」
すると玲くんの顔が益々強張った。
「君が必要なくても、僕には必要なんだ!!!」
空気に…妙な緊張感が走る。
玲くん…どうしちゃったんだろう。
何だか凄く苛立っているようで。
「君には"たかが"アクセサリー"かもしれないけれど、僕にとっては重要なことなんだ」
たかが…とは思っていないよ。
だってあたしだって、買ったバングルに…感謝の気持ちを込めたんだもの。
というか…さっき買ったバングル、見劣りしちゃう。
「何? もっと高い物が欲しいの? じゃあ強請(ねだ)ってみてよ、可愛く」
ゆっくりと…向けられたのは冷笑。
本能的に思った。
あたしと玲くんって…価値観が違うのかな。
だけどあたしの節約の先生は玲くんで…。
「君が欲しいものは何でも買って上げるよ? 世界で1つしかないものがいい? 買って上げるから…だから強請ってみてよ、僕だけに!!!」
"買って上げるから"
あたし――
そういう…手軽な女に見られていたのかな。
それとも――
次期当主になったら、変わっちゃったのかな…。
「僕といるのに、違う奴を考えるなッッ!!」
意味が判らない。
玲くんの変貌の理由が判らない。
壁が…見えてしまった。
「何か…玲くんとは、
棲む世界が違うんだね」
思わず…ぽろりと零れてしまった。
玲くんが遠くなった気がして寂しくなって仕方が無かった。
前の玲くんの方がよかった。
1本50円の大根買いに行く玲くんの方がいい。
あたし他に何もいらないから。
あの時の時間に巻き戻して欲しい。
思わず――
「芹霞!!!?」
ほろりと涙が零れた。
見開かれる鳶色の瞳。
何だか恥ずかしくて悔しくて――
あたしは走って店内から出たんだ。

