それは――

CMや雑誌広告で知る人ぞ知る宝石店(ジュエリーショップ)。


『AOI』


もう…何も突っ込むまい。


昨日までは、関係あるとは思わなかった。

それは、深い溜息零す玲くんも同じだろう。


店内は大繁盛。


そこまで人気のお店は、どんなアクセサリーが置いてあるのか興味をもってしまったあたしに、玲くんは疲れたように笑いながら、店内を歩くことを許してくれた。


しかしどれを見ても…デザインは綺麗だ。


コンセプトは、和と洋の融合らしい。


形は流麗で慎ましやかなのに、存在感がある。


胡散臭い蒼生ちゃんが、どうしてこんなに綺麗なものを生み出せるのか不思議で仕方が無い。


そして絶妙の位置に埋め込まれた宝石もきらきらして美しい。


若年層も年配層も…思わず引込まれるものだと思う。


「こりゃあ人気があるわけだ」


ケースを覗き込みながらあたしが言うと、玲くんは何だか上の空で、奥のケースの方に視線を向けていた。


店内観覧をじっくりしている様子から見れば、玲くんも此処のデザインはお気に召してはいるようだ。


隣のカップルの嬉々とした声が聞こえて、思わず注視した。


色々指に試着する彼女さんを見て鼻の下を伸しまくりの彼氏さん。


そして1つのものを決めたらしい彼女さんに頷いた彼氏さんは、得意げに長財布を出した。


すると、微笑んだ店員さんがすっと差し出した紙を見た途端、彼氏さんは財布を床にぽたりと落とした。


彼氏さんの顔は青ざめ…全身がぶるぶる震えている。


それ程の高額なものだったのか。


それなら前もって却下していればいいものを…と思ったあたしは、ケース内の全ての宝石に値札がないことに気づいた。


再度店内を見渡せば、同様に震えた彼氏さんが大勢だ。

喧嘩して怒って出て行く彼女さんもいる。


どれ程の金額なんだろう。


蒼生ちゃんの作る服だけでもあんな値段なら…庶民には考えつかぬお値段に違いない。


その値段を知っても尚、購買しようとする彼氏さんは…世間知らずかセレブのどちらかだろう。