「馬鹿か、お前。何でこんな時に、オレが純文学なんて読まないといけないんだよ。普通考えれば判るだろ?」


高飛車な紅紫色の瞳が向けられる。

あくまで"純文学"と言い張って。



「お前、オレを何だと思ってるんだよ」



信じられない。


いつから久遠が真面目に…



「ああ、もう…あの本に飽きてしまわれたのか」



ぼそり。


蓮の独りごちた声が聞こえた。



「本当に久遠様が飽きられないのは、紫堂櫂いびりと芹霞のことだけだな。なにせ…何の執着も見せない久遠様が、13年も一途に芹霞を想い続けているとは…奇跡のようなことだ」


それは久遠には届かなかったみたいで。



「何」


俺だけ睨まれた。



「何だよ、その目は」



頭が痛い。

癒しが欲しい。


俺は大きな溜息をついて煎茶を飲んだ。


画面には…スクリーンセイバーとなった文字が動いている。


(蒼`◇)<濃厚氷━☆(゚■゚紫)ノ


――紫堂~、だからボク、Linuxはよく判らないんだって。解除出来るのはきっと師匠だけだ。それまで我慢してくれ。


分裂したり点滅したり。


本当に、俺の機嫌を降下させることばかり。



――あははははは~。



「…ふうん?」



気づけば――

久遠が腕組みをして画面を見ていた。


初めてこのスクリーンセイバーに気づいたらしい。



「あの男が、そんなものを設定してたのなら、それは意味があるんだろう」


珍しく、何かを考えている。


聡明で理知的な面差しに思えるから不思議だ。


「あの男は、緋狭同様…"食わせ者"だ。無駄を嫌う」


そして、腕を解いて…白くて長い指で俺が取り上げた本を指し示す。



「お前…五皇の"色"を言えるか?」


突如、そう言い出した。