少年は――

明け方の海を見ていた。



無限の広がりを見せる、煌びやかな碧。


光瞬くそれを見ていると、夢さえも現実になりそうな錯覚を起こす。


ありえもしないことが、起こりえるような気がするのだ。


それは少年の心の奥底に鎮める"願望"。


決して消すことは出来ない、まるで逡巡のように…ただ心を巡っていただけの儚い"願望"。


もしそれが、

現実になったら――?



だけど少年は知っている。


この海の下層に眠る真紅。


どこまでもこの海は――

罪に穢れた澱んだ色をもつことを。



罪は巡る。


何処までも巡る。



逃げ場などありえない。


終点などありえない。



全ては――

因果律の起点に戻るだけ。



そう、きっと…。


その出会いは必然だったのだ。



それは贖罪故なのか。



それとも…


何かが破滅する…予兆だったのか。



だとすれば…それもまた一興。



所詮此の世は砂上の楼閣。

自分もまた…

陽炎のような幻なのだから。



元々"生"など遙か昔に無くしてしまった少年は、

もう恐れることなど何もなかった。


煌びやかな現世での夢物語。


それが現実に還った時、人々が見るその姿は…どこまで真逆なものなのか。


人々は、何処まで絶望して狂乱するのか。


それは少年にとっては懐かしい匂いでもあり、だからこそ彼は自嘲気に笑った。




「幕が…上がったようだ」




妖麗な顔だちの少年は、海の色合いのような瑠璃色の瞳を僅かに細め、呟いた。



「――せり」



――と。