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ウィーーーン。


「ふはぁ……」


ウィーーーン。


「きゃははははは」


ウィーーーン。


「はぁ…ねむ…」


ウィーーーン。


「きゃははははは」





「……静かに、真面目に仕事をしろ」




そう鋭い口調で諫めたのは、久遠。


珍しく威厳ある主人の姿を披露しているが、彼の手にあるのは――

『Amour et rose』


『愛と薔薇』とフランス語で書かれた1冊の本。


この本の噂は聞いたことがある。


純文学という肩書きの、かなりの官能小説のはずだ。


先刻から顔色1つ変えず、涼やかな顔をして、あくまで淡々と読み耽っている。



「………」


俺はもう…溜息しか出てこなかった。



少し前までを思い出す。


調べねばならない本は山とあるのに、それを消化出来る人間が少なすぎた。


遠坂はパソコンにかかりきり、蓮はルーン文字やら古文書の文字やらは読めないらしく…遠坂の補助をしながら本の仕分けをするだけで。


怠惰な部下の子供達は寝るか遊ぶかして遠坂の癇癪の餌食となり、残るは俺と久遠だけ。


久遠の期待は…やはり禁物で。


『お前、俺に任せっきりで、何エロ本を読んでいるんだ!!』


思わずそう機械に打込めば、


「久遠様は、お前の面倒で連日お疲れなのだ。更にお前のせいで、疲労の上傷心気味。

そんな疲れ切った心を癒せるのは、濃密な恋愛話なのだろう。

精神世界に代償を見つけられただけ、ましなのだ。今はそっとしておいてやれ」


小声で蓮に諭(さと)された。


俺、のせいか?


傷心?


俺は手首の布を見る。


そこまで、これが気になるのか?


それでエロ本?

こんな白昼、堂々と?