"約束の地(カナン)"の住人とは頻繁に会えるわけではないから、だから彼らと共有時間を満喫したいという気持ちも判らないでも無いけれど…


俺の存在は芹霞の視界に入っていなくて。


何より久遠は、芹霞の心の深層に深く刻まれた初恋の男。

表層の記憶がなくなっても、芹霞が特別な呼び方を唯一許した男。


俺より先に"永遠"を約束した相手だから。

俺は…久遠の代わりのような"後釜"だったから。


久遠と芹霞が2人でいるのは、本能的な怯えが生じるんだ。


しかも――

"約束の地(カナン)"に来れば、俺は芹霞に放って置かれ…


だから芹霞に忘れられないよう、

芹霞に捨てられないよう、


俺は必死に追いかけ回す羽目となる。



――芹霞ちゃあああん!!!


8年前みたいに。



そしてそれを見た久遠に笑われるんだ。


――馬鹿か、お前。12年間、何してたんだよ。




「何」


不機嫌そうな久遠の声。


「だから何」


俺はふいと横を向いて、足下の本を取って頁を捲る。


「お前…そんなに態度がでかいと、せりに嫌われるぞ」


俺は久遠を睨み付けながら、またキーボードを叩いた。


『ご心配なく!!! 心配するなら自分の方をしろ』


「言ってるじゃないか。オレはせりが嫌いだから別に嫌われたって…」


『はいはい』



「――――…。

外に出ろ、紫堂櫂ッッッ!!!」


『望む所だ!!!』



同時に椅子から立ち上った俺達を――



「紫堂ッッ!!! 久遠ッッッ!!!

二度も言わすな!!!


"お座り"ッッッ!!!!」



遠坂の怒声の前には――

俺達は…人間以下だった。