シンデレラに玻璃の星冠をⅡ



"遊園地"化した此の土地に訪れた子供に、風船を渡すだけの簡単な仕事を、まともにしているのは蓮と旭だけで…司狼はそれが出来ないらしい。


風船を手渡すことの一体何が、難しいというのだろう。


この怠惰さは…絶対、主から受け継いでいる。


久遠の放蕩癖は、特別な理由が如何は関係なく…単に彼の気質の問題だ。



いい年をして、働こうという観念がない。


紫堂財閥の財力で各務家そのものを存続させて貰っているのに、感謝しないどころか、それにただ乗っかって逆に悪態をつく始末。


ふらふら遊園地施設内を歩き回って、尋常ではない妖艶過ぎる姿態で大量の女を誘き寄せるだけで1日を終えるらしい。


…まあ、以前のように"相手"をしないだけマシといえばそれまでだが。


何を考えているのか判らない。

本当に気紛れ、根っからの自由人だ。


今までの"虚無"しか漂わせなかった顔には、幾らか人間らしい生気は宿ったものの、それでも飄々としていて浮世離れしている処は相も変わらず。


何に執着するでもなく興味を持つでもなく――芹霞以外は。


その事実だけで俺は苛ついてくるんだ。


全てにおいて興味がないのなら、芹霞のことも捨て置けばいいのに。


言霊の力に乗せて、完全に芹霞をきっちり拒めばいいのに。



――うるさいな、せり。寄るなよ、オレは君が嫌いなんだよ。いい加減、判れよ。



そんな言葉で芹霞を求めている。

視線は芹霞だけを追いかける。


そして芹霞も久遠を拒まない。


どんなに罵詈雑言向けられて悪態つかれても、


――久遠も早く早く!!! 一緒に遊ぼう!!!


忌々しいったらありゃしない。


"約束の地(カナン)"では俺との"永遠"を選んでくれたはずなのに、俺は芹霞を勝ち取ったはずなのに…


実感がなくなってしまう。


芹霞はまだ、久遠を好きなんじゃないか。

俺を捨てて、久遠と生きようとしているのじゃないか。


そんな猜疑心が芽生えてきて。