俺が動けるようになった途端、久遠は無理やり引き摺るようにして俺を書庫に連れた。
――元々白皇…レグは魔術師で、国外のある秘密結社に所属し、その命令でもって"天使"を探し…各務家に屍食教典儀をもたらして取り入っていたのはお前も判っていたな。
前振りなしに単刀直入で、久遠は話題を切り出す。
――結局は"天使"の虜になったレグは所属結社を裏切り、付け狙われる羽目になったわけだが…書庫でレグの自筆と思われる書物が現われた。書かれている言語は…ルーン文字。オレは正直、ルーン文字の解読は慣れていない。何とか書庫の辞典を引いて数頁、ルーンからラテン語に変換して読んでみたが…
久遠の瞳は、どこまでも温度を無くしている。
――『De Vermis Mysteriis』。
流暢に発音した久遠は、じっと俺を見つめてきた。
――レグが所属していた秘密結社は、その名前の本を教典の1つに掲げていたらしいことが判った。
『De Vermis Mysteriis』
――お前なら、ラテン語は判るな? 訳すれば…
『妖蛆(ようしゅ)の秘密』
――屍食教典儀や黒の本らに並ぶ怪異の魔道書だ。
蛆…。
――そこには、蛇神崇拝を始めとして…
蛇…。
――不可視の魔物の召喚や…
《妖魔》…。
――不老不死の肉体を手に入れる方法もあるらしい。
藤姫…関連か。
――そして、"約束の地(カナン)"にあった全ての魔方陣の模様が描かれていた。無関係でないというのなら、お前が受けているの災厄は、連鎖的に此の土地にも訪れる。
忌々しそうに、俺を睨みつけて。
――お前が此の土地を遊園地にしなければ、巻き添え食らう奴らはいなかったはずなのに。だから連帯責任だ!!! まず状況を掴むことに協力しろ!!!
それなりに…守ろうとしているのか、"約束の地(カナン)"を。
しかし何でそんなに偉そうに指図するんだよ。

