「……なあ、紫堂櫂。お前を蘇らせた報酬はチャラにしてやるから…その汚い布、オレに寄越せ」


そこまでしてこの布が気になるらしい。


芹霞に関連する故かと思えば、意地でも久遠には触れさせたくも、目に入れさせたくもない。


『断固拒否』


そうキーボードに叩き付けた俺は、久遠をひと睨みして、布を巻き付けた手を背中に回して遠ざけた。


「安い取引じゃないか。寄越せ」


俺はぶんぶんと頭を横に振った。


「寄越せ、紫堂櫂」


身体全体で、絶対的な"拒絶"を見せてやる。


絶対、これだけは渡さない。

一文無しになっても、これだけは手放さない。


だから――

判られるんだろう。


俺が意固地になるのは、芹霞に関してだと見抜くが故に。


隣から、凄いイライラが感じられる。


ありえないくらいの貧乏揺すりまで感じる。


傍目ではいつも通り気怠げで何を考えているのか判らない顔をしているのに、久遠は明らかに俺に対して苛ついている。


俺は久遠に散々な目に合わせられたから、その腹いせにわざとらしいくらいに手首の布に唇を寄せて、見せつけてみた。


案の定…ポーカーフェイスが微細に崩れる。


「寄越せよ」


俺はいつもの久遠のように、傲慢な態度でふふんと笑ってやり、久遠の目の前に出したその手をまた遠ざけ、片手で打込む。


『嫌だね。誰が』


妖麗な顔に、殺気めいた光が横切った。


「……。随分とオレに大仰な態度をとるな、この死に損ない」


『それはお前も同じだろう』


「……。やる気なら、外にでろ。相手してやる」


『それはこっちの台詞。どちらが上かきっちり勝負つけてやる』


そして2人同時に、憤るように椅子から立ち上がると、




「やめなよ。2人して全く…子供みたいに」


向かい側から、遠坂が大きな溜息をつきながらぼやいた。