シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「ねえ…あれ…」

「そうだよね…間違いなく、今話題の…」

「"氷"に見える? 凄く優しげでにこにこしてない? え、何あの甘甘」


僕が紫堂の次期当主だと気づいた人は結構多かったと思う。


「あれ、彼女?」

「堂々と連れ歩いていいのかな」

「あれだけ堂々としてたら婚約者か何かだな。何処かのお嬢様かな? ああ…高嶺の花だな…」

「本当凄く可愛いね。…って、私がいるでしょう、何落ち込むのよッ!!!」


それでいい。

僕には、こんなに可愛い恋人が居る。


悪いけれど、皇城側には諦めて貰う。


公衆の面前で、僕が"見せつけている"のは、実はそうした目的もあった。


氷の次期当主?


だったら見てみろよ。

僕はこの子の前でしか、笑わない。

この子でしか、幸せを感じない。


それが何を意味をしているのか…僕の目を見るだけでも判るだろう?

こんなに溺愛する女性がいて、他の女性なんて入り込む余地などないよ。

子供なんて絶対作らない。


芹霞とのお出かけが、紫堂にとっての醜聞(スキャンダル)になろうが構わない。

僕はそこまで紫堂に固執していない。


周涅が何を画策しているか判らないけれど、僕は芹霞がいるんだ。

悪いけど…引いて貰う。

他をあたれ。


その時、何だかやたら律動感ある音楽が流れてきた。


「ねえ、玲くん。S.S.Aって…ラテン系のノリなのかな?」


戸惑った声を芹霞は発した。


広い道、突如横から…ここの従業員だと思われる男女が、腰をふりふり…ラテンダンスを披露しながら僕達を取り巻く。


どうやら男の腰に簡易スピーカはつけられて、そこから音楽が流れているようだ。


外は寒いのに、露出度の多い淫猥な青い衣装に身を包み…とにかくその動きが強烈だった。


くねくね、くねくね。


何で必要以上に…そうした卑猥な絡み方を僕達に見せつけるのかな。

ああ…そんな動きで、相手にそんなに腰を押し付けて…


目の毒だよ。

芹霞が引いてしまうじゃないか。


「………」


予測通り、芹霞の顔は引き攣って目が泳いでいる。