「ねえ…あれ…」
「そうだよね…間違いなく、今話題の…」
「"氷"に見える? 凄く優しげでにこにこしてない? え、何あの甘甘」
僕が紫堂の次期当主だと気づいた人は結構多かったと思う。
「あれ、彼女?」
「堂々と連れ歩いていいのかな」
「あれだけ堂々としてたら婚約者か何かだな。何処かのお嬢様かな? ああ…高嶺の花だな…」
「本当凄く可愛いね。…って、私がいるでしょう、何落ち込むのよッ!!!」
それでいい。
僕には、こんなに可愛い恋人が居る。
悪いけれど、皇城側には諦めて貰う。
公衆の面前で、僕が"見せつけている"のは、実はそうした目的もあった。
氷の次期当主?
だったら見てみろよ。
僕はこの子の前でしか、笑わない。
この子でしか、幸せを感じない。
それが何を意味をしているのか…僕の目を見るだけでも判るだろう?
こんなに溺愛する女性がいて、他の女性なんて入り込む余地などないよ。
子供なんて絶対作らない。
芹霞とのお出かけが、紫堂にとっての醜聞(スキャンダル)になろうが構わない。
僕はそこまで紫堂に固執していない。
周涅が何を画策しているか判らないけれど、僕は芹霞がいるんだ。
悪いけど…引いて貰う。
他をあたれ。
その時、何だかやたら律動感ある音楽が流れてきた。
「ねえ、玲くん。S.S.Aって…ラテン系のノリなのかな?」
戸惑った声を芹霞は発した。
広い道、突如横から…ここの従業員だと思われる男女が、腰をふりふり…ラテンダンスを披露しながら僕達を取り巻く。
どうやら男の腰に簡易スピーカはつけられて、そこから音楽が流れているようだ。
外は寒いのに、露出度の多い淫猥な青い衣装に身を包み…とにかくその動きが強烈だった。
くねくね、くねくね。
何で必要以上に…そうした卑猥な絡み方を僕達に見せつけるのかな。
ああ…そんな動きで、相手にそんなに腰を押し付けて…
目の毒だよ。
芹霞が引いてしまうじゃないか。
「………」
予測通り、芹霞の顔は引き攣って目が泳いでいる。

