うん。
此処はいい。
此処は芹霞にとって、刺激的でいい。
僕を嫌でも"男"として意識してくれるだろう。
僕は上機嫌だった。
「周りが気になるの?」
身を屈めて、芹霞の耳元で囁けば、真っ赤になった芹霞が静かに頷いた。
この初々しさがたまらない。
「僕達だって…結構凄いの、してきたじゃないか」
つい…意地悪したくなってくる。
「!!!?」
ムンクの叫び。
「気にならない方法…教えてあげようか?」
「?」
「僕達も、2人だけの世界に入ってしまえばいいんだよ。そうすれば、周りの事なんて気にならなくなるから」
「れ…れれれ!!!?」
「レレレのおじさんが何? …んっ」
ちゅっと唇にキスを落として、固まった芹霞に笑いながら…僕は芹霞の下唇と、続けて上唇を舌でぺろりと舐めた。
「れれれ…」
またレレレだ。
何だか、凄く気分がいいや。
「れれれ…」
芹霞はレレレの世界から帰って来れないらしい。
「これが…"カレカノ"の実体だよ? ほら…幸せそうでしょ?」
僕の悪戯心に火が付いてしまった。
抱き合って身体をいやらしく密着させ、濃厚な口づけをかわすカップルを指差して見せたら、案の定…芹霞は目と口を大きくあけたまま石になった。
「ね、何もおかしなこと…僕してないでしょう? むしろ可愛いものでしょう?」
「あ、甘くみていた…S.S.A。凄いものなんだ、"カレカノ"…」
ごめんね、芹霞。
刺激が強すぎたね。
鼻血…垂れちゃった。
「これは、特別ノーカウントにしてあげる」
僕は笑いながら、ティッシュを芹霞の鼻に被せて、
「見られたら恥ずかしいだろう?」
きゅっと正面から抱きしめた。
「僕が隠してあげる」
往来でこんなことをするなんてね。
何してるんだろうね、僕。
注目されているのが判る。
羨ましがられているのが判る。
それに満足感を感じるなんて、僕はおかしいのだろうか。
周りに煽られ、羞恥よりも愛しさが募る僕は…これから来る嵐を予感することは出来なかったんだ。
心が…浮揚しすぎて。

