ねえ…。

櫂の記憶を無くして尚も僕を"対象"として見れないの?


僕をそういう目で見てくれないのは、君の心の中に"誰か"がいるからではなく、僕自身が…僕という存在自体が、興味がないって事なの?


どんな状況になっても、僕じゃ君の"運命"の相手にはならないの?


もう…頭はぐちゃぐちゃだった。


それまでの喜悦感は急降下し、今はただ…冷えた苦しさだけが身体を支配して。

だけど心の奥だけは焦げ付くような熱さを孕んで。


相反する2つの温度差に、憂悶した僕はたまらなく喘いだ。


僕を…鎮めてほしい。


そこからは衝動的だった。


久しぶりに触れた芹霞の唇は柔らかくて。


僕の苦しみを紛らわせた。


夢中になって貪った。


たまらなく、身体が熱くなる。

心が…僕の身体が、芹霞を欲して止まらない。


僕をこんな状態にさせるのは、芹霞だけだ。


触れるこの全てが僕のものならいいのに。

この唇から出る言葉が、全て僕への愛の言葉ならいいのに。


芹霞の吐息が甘く乱れれば、もしかして…という期待ばかりが膨れあがり、僕の恋心が刺激されて煽られていく。


言葉で伝わらないのなら、唇から…僕の熱さから、僕の真剣さを感じ取って欲しかった。


僕の欲しいのはただ1つ。


――紫堂櫂を愛してる!!!


あの時のような、魂の叫び。


芹霞という存在で、僕という存在を欲して貰いたいんだ。


愛しい愛しい僕の芹霞。


――僕に…応えて…?


身体では応えてくれるのに…心は応えてくれなくて。


切なくて堪らなくなる。


芹霞はこんなに近いのに、やけに遠く感じて。


どう伝えればいいんだろう。

どうすれば、芹霞の心の中に、僕の想いが根付くのだろう。


僕の心からの想いは、言葉は…芹霞の顔を翳らせるだけで。


"真剣に考える"


言葉ではそう言ったけれど…向けられる目は違ったんだ。


困っていた。

躊躇っていた。


コバンデイル。


僕はすぐそう思った。