「玲くん…どうして此処に!!?」
まだ…慣れない。
此処は――
紫堂財閥本家の客間。
礼儀正しい玲くんが、夜中に(一応)婦女の寝室に侵入するなんて、ありえないとは思うんだけれど…
「芹霞、僕がいるからね?
僕が…守ってあげるからね?」
今にも泣き出しそうなその顔と声音を聞いていると、本当に玲くんは優しいなと思う。
玲くんだって仕事で疲れているんだろうに、眠らずあたしに付き添ってくれている。
玲くんが駆け付けるほど、あたしは大声で叫んでいたのだろうか。
「また…ごめんね、玲くん。こんな時間…起こしちゃって」
「大丈夫だよ、僕は…何日も寝ないで仕事することもザラだったから。
それに…1人で居たって、睡眠薬を飲まなきゃ寝れない状態だし」
そうにっこり笑う顔は、憔悴して疲れ果てていた。
そこまで…次期当主というものは大変なんだろうか。
それでも玲くんがその肩書きを望んでいるのなら、あたしには口出しする権利はない。
玲くんは、玲くんの考えがある。
玲くんの人生があるのだから。
「君が安心して眠れるまで、僕が此処についていてあげる。
だから安心して――
おやすみ、芹霞」
玲くんの声音は、限りなく静かで。
あたしの手を握りしめる玲くんの手は、限りなく優しくて。
傍に居てくれるだけで安心する。
以前に経験した入院中のことが喚起され…
あたしは玲くんという存在に、癒されていることを知る。
あの時も玲くんはあたしにつきっきりで、あたしの世界は玲くんだけしかいなかったっけ。
「入院のことを思い出すね。
ふふふ、煌がよく室内に泊まりたがって…桜ちゃんに引き摺られて帰ってたよね。
お見舞いに来てくれる2人がいなくなったら寂しかったけれど…だけど玲くんいたからあたし安心してたんだよ」
そう笑ったら、
「思い出すのは…それだけ?」
か細く震える声音が聞こえた。

