「ねえ…あたし、

まだ"約束の地(カナン)"に居たい。

久遠ともまだ一緒に居たい!!」


思わずあたしは、久遠に抱きついた。


いつもなら――…


――離れろ、せり!!!


どこまでも拒絶して、あたしをとことん突っぱねる久遠が、


「せり、約束は出来ないのか?」


あたしを、身体でくるむようにぎゅっと抱きしめて。


「約束はする。だけど…」


そして体を離すと、間近で久遠が…優しく優しく微笑むから。

らしくないことをするから。



だからあたし――

不安が拭えなくて。


久遠の手を両手で掴んで、妖麗な顔を…じっと見つめた。



すると久遠は――



「せり、笑っていろよ」



逆にあたしの手を引いて、

あたしを引き寄せると――



「!!!!」



頬に、唇を当てたんだ。



少し震えた冷たいその唇に、

あたしは涙が止らなくて。



「これくらいいいだろ、紫堂玲。

嫉妬深い男は、嫌われるぞ?」



そんな笑い声の後。



そこに居たのは――


「不細工面を見せるなよ、せり。

これ以上顔を崩してどうするんだ?」


いつものオレ様久遠。



少しかちんときたけれど、それ以上に――



まるで…夢のように思えたんだ。



優しい久遠の姿が――

あまりにも…儚げで。